下痢(げり)や軟便を引き起こすメカニズムは?腹痛を伴う場合の原因も解説

「突然の腹痛から下痢になってしまった」

「最近下痢や便秘が続いていてお腹の調子が良くない」

そんなお腹のトラブルに悩んでいる人もいるのではないでしょうか。

お腹の不調は食中毒やストレス、病気などさまざまな理由によって起こるため、原因を突き止めて正しく対処することが大切です。

この記事では、腹痛を伴う下痢や軟便の原因や下痢や軟便を引き起こすメカニズム、病院に行くべき症状、自宅での対処法を詳しく解説します。

 

腹痛を伴う下痢や軟便の原因

腹痛を伴う下痢や軟便には、いくつかの原因が考えられます。

はじめに、代表的な原因について紹介します。

 

食中毒によるもの

腹痛を伴う下痢や軟便は、食中毒が原因となっている場合があります。

食中毒は、食べ物や飲み物を口にしたり、中毒原因が付着した食器などを使用したりすることで起こる中毒症の総称です。

これらは、食あたり、水あたりとも呼ばれることもあります。

食中毒が起こる原因はさまざまですが、大きく分けると以下の5つになります。

  • 細菌性食中毒
  • ウイルス性食中毒
  • 自然毒による食中毒
  • 化学毒による食中毒
  • 寄生虫による食中毒

ひとつずつ食中毒の原因について確認してみましょう。

 

細菌性食中毒

細菌性食中毒は、食中毒を起こす細菌を摂取することで引き起こされる食中毒です。

細菌性食中毒は細菌が増えやすい梅雨や夏(5月〜9月頃)に多く発生する傾向があり、感染型と食物内毒素型、生体内毒素型があります。

感染型は、毒素型に比べると一般に潜伏期間が長いのが特徴です。

感染型食物内毒素型生体内毒素型
食べ物や飲み物に付着した細菌を、一緒に摂取することで発症する食中毒です。

【代表的な細菌の種類】

  • サルモネラ属菌
  • 腸炎ビブリオ
  • カンピロバクター
食品中で原因菌が増殖するときに毒素を産生し、その毒素が付着した食品を摂取することで発症する食中毒です。

【代表的な細菌の種類】

  • セレウス菌(嘔吐型)
  • 黄色ブドウ球菌
  • ボツリヌス菌
食品中で原因菌が増殖するのではなく、摂取した菌が腸管内で増殖するときに毒素を産生し、その毒素が原因となり発症する食中毒です。

【代表的な細菌の種類】

  • 病原性大腸菌(O157、O26、O111など
  • セレウス菌(下痢型)
  • ウエルシュ菌

 

ウイルス性食中毒

ウイルス性食中毒は、食中毒を起こすウイルスが付着した食べ物や飲み物、食器やウイルスに感染した人を媒介し口に入ることなどにより引き起こされる食中毒です。

ウイルス性食中毒の原因となるウイルスは温度が低く乾燥している環境で長く生存するため、冬(12月〜3月)に発生が多くなる傾向があります。

【代表的なウイルスの種類】

  • ノロウイルス
  • サポウイルス
  • A型肝炎ウイルス

 

自然毒

動物や植物の中には、もともと毒成分を持っているものや食物連鎖によって体内に毒を取り込んでいるものがあります。

自然毒による食中毒は、有毒成分を持つ動植物を食べることで起こる食中毒です。

自然毒による食中毒の原因は、大きく分けて植物性自然毒と動物性自然毒があります。

 

【植物性自然毒】

自然界には毒をもつ植物が多くあり、食用できる植物と見た目がよく似ているものもあります。

植物性自然毒による食中毒は、山菜やきのこ狩りなどで植物や野生のきのこを採り、誤って食べてしまうことで起こることが多いです。

毒性成分によって症状は異なりますが、下痢以外にも嘔吐や痙攣などの症状が起こるものもあります

とくに、きのこではカエンタケ、植物ではイヌサフランやトリカブトは、中毒症状によって死に至る場合もあるので注意が必要です。

 

【動物性自然毒】

動物性自然毒による食中毒は、毒を持つ魚や貝を食べることが主な原因です。

とくにフグが持つフグ毒(テトロドトキシン)による食中毒は多く発生しており、中毒症状によって死に至るケースもあります

また、有毒なプランクトンを食べたホタテガイやアサリなどの二枚貝によっても、下痢などの症状が起こります。

 

化学毒

化学毒による食中毒は、本来、食品に含まれない有害な化学物質を摂取することで起こる食中毒のことです。

食品の生産から流通、消費の過程で誤って混入することがあり、洗剤や漂白剤、食品添加物、農薬、水銀、鉛などが化学毒の原因になります。

食品製造・加工の際に化学物質が飲食物に混ざったり、水筒ややかんなどの金属容器から有害物質が溶け出し、飲食物に付着したりすることで、食中毒が起こることがあります。

また、ヒスタミンを多く含む魚介類や加工品を食べることで、食中毒が起こるケースも多く、これも化学毒による食中毒に分類されています。

ヒスタミンはヒスチジンというアミノ酸が多く含まれる食品の鮮度が低下などすると、ヒスタミン産生菌が増殖し、生成されます。

ヒスチジンはマグロ・サンマ・カツオ・サバ・イワシ・ブリなどの魚に多く含まれていますので、常温に放置するなど不適切な管理をしないよう注意しましょう。

 

寄生虫

寄生虫による食中毒は、寄生虫がついた飲食物を摂取することで起こる食中毒です。

寄生虫は魚介類・肉・野菜・水などに生存していることがあり、感染すると下痢や腹痛、嘔吐などの症状が現れる場合があります。

食中毒を起こす代表的な寄生虫は、魚介類に寄生するアニサキスクドア、馬や牛などの筋肉に寄生するザルコシスティスなどです。

とくに、サバ・アジ・カツオ・イカなどに寄生するアニサキスによる食中毒がもっとも多く発生しています。

原因物質別にみても寄生虫による食中毒がもっとも多く、農林水産省の発表によると平成29年〜令和3年に発生した食中毒では寄生虫・細菌・ウイルスが高い割合になっています。

 

【原因物質別の食中毒発生件数の割合(平成29年~令和3年)】

  • 寄生虫:36.3%
  • 細菌:36.0%
  • ウイルス:17.5%
  • 自然毒:6.6%
  • 化学物質:1.3%
  • その他:0.3%
  • 不明:1.9%

出典:農林水産省Webサイト:https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/statistics.html

 

冷えによるもの

腹痛を伴う下痢や軟便は、「冷え」によって起こる場合があります。

ひとくちに「冷え」といっても、一時的にお腹が冷える「急性の冷え」と症状が長期間持続する「慢性の冷え」があり、原因が異なります。

 

【冷えの原因】

急性の冷え慢性の冷え
  • 冷たい飲食物を摂取した
  • クーラーの冷たい風に当たっていた
  • 運動後に汗冷えをした
  • 気温が低い日に薄着で過ごしていた
  • 湯冷めをした
  • ストレスや不規則な生活による自律神経の乱れ
  • 貧血や低血圧による血液循環の悪化
  • 無理なダイエットや老化などによる筋肉の量の減少からくる熱量不足
  • 女性はホルモンバランスの乱れ

急性の冷えは症状が一時的であるため、比較的短期間で落ち着くことが多いのが特徴です。

 

反対に、慢性の冷えの場合、体質によるものや生活習慣によるものが大半を占めます。

上記の原因によって胃腸の血流が徐々に悪くなり、胃腸の機能が弱まります。

これにより、お腹が冷えやすくなるため、下痢や腹痛といった症状が起きるのです。

この場合は、長期的な改善が必要となります。

急性の冷え、慢性の冷え、それぞれの自宅でできる改善方法を記事後半部分(見出し4)で紹介しますので、心当たりのある人は参考にしてみてください。

 

暴飲暴食によるもの

暴飲暴食によって腹痛を伴う下痢が起こるケースもあります。

食べ物や飲み物を過剰に摂取すると水分の摂り過ぎや消化不良によって腸が刺激され、腸の動きや便の水分量などに異常が起こるためです。

過剰なアルコール摂取も腸の機能を低下させるため、お酒を飲んだ後に下痢になることがあります。

 

ストレスによるもの

腹痛を伴う下痢は、ストレスが原因の場合もあります。

腸のはたらきは自律神経によってコントロールされています。

ストレスが溜まって自律神経が乱れることにより、腸の機能に異常が起きて下痢や便秘、腹痛などの不調が起こることがあるのです。

 

また、朝の出勤、通学前、試験前、デート前など、ストレスや緊張を感じる場面で腹部の不快感や下痢が起きやすい人は、過敏性腸症候群の可能性が考えられます。

過敏性腸症候群は腸管に異常がなく、下痢や便秘などの症状が慢性的に続く病気です。

ストレスや不安、緊張などによって自律神経が乱れ、腸の動きが過剰になるのが原因とされています。

 

病気によるもの

下痢が起きている場合、腸の炎症腫瘍などの病気が関わっていることもあるので注意が必要です。

下痢を引き起こす病気には、以下のようなものがあります。

  • 感染性胃腸炎
  • 潰瘍性大腸炎
  • クローン病
  • 大腸がん
  • 慢性膵炎

病気が原因の場合は、慢性的な下痢が続くことが多いです。

病気の可能性を感じたら、早めに医師に相談しましょう。

 

下痢や軟便を引き起こすメカニズム

下痢や軟便を引き起こすメカニズムは、以下の4つに分類されています。

  • 腸運動性の下痢
  • 滲出性の下痢
  • 分泌性の下痢
  • 浸透圧性の下痢

それぞれのメカニズムの特徴を確認してみましょう。

 

腸運動性の下痢

私たちが食べたものは胃や十二指腸で消化・分解され、小腸で栄養を吸収して残った内容物が大腸へと運ばれます。

大腸ではぜん動運動によって内容物がゆっくりと運ばれ、水分やミネラルが吸収されて便が作られています。

腸運動性下痢は、何らかの原因でぜん動運動が活発になり、腸内の内容物が早く移動して水分の吸収が不十分になって起こる下痢です。

  • 冷えによる自律神経の乱れ
  • 暴飲暴食
  • 過敏性腸症候群

などが原因となります。

 

滲出性の下痢

滲出性の下痢は、腸にできた炎症によって血液や粘液、体液などが分泌され、便や水分量が増えることで起こる下痢です。

炎症が起こって水分を吸収する機能が低下するのも原因のひとつです。

滲出性下痢は、以下のような病気によって引き起こされます。

  • 潰瘍性大腸炎
  • クローン病
  • 腸結核
  • リンパ腫
  • がん

 

分泌性の下痢

分泌性の下痢は、細菌の毒素やホルモンの影響によって腸から分泌される水分や塩分が増加し、便の水分量が増えることで下痢を引き起こします。

細菌やウイルス、寄生虫による食中毒によって起こるケースがあり、分泌性の下痢は便の量が増えることが多くあります。

 

浸透性の下痢

浸透性の下痢は、浸透圧が高い食べ物を摂取することで腸への水分の吸収がされにくくなり、便の水分量が増加し起こる下痢です。

浸透性の下痢を引き起こす原因は、

  • 糖アルコール(キシリトール、還元水飴、マルチトール、ヘキシトール、ソルビトール、マンニトールなど)の摂取
  • 一部の果物・豆類の摂取
  • 糖分の消化不良
  • アルコールの過剰摂取

などがあります。

牛乳に含まれる乳糖を分解できない体質(乳糖不耐症)によって起こる下痢も、このタイプに当てはまります。

 

こんな症状もあるなら病院へ

腹痛を伴う下痢や軟便が起きているとき、他の症状や便の状態によっては早急に検査や治療が必要な場合があります。

以下のような症状もあるなら、早めに病院へ相談しましょう。

 

激しい腹痛や発熱

下痢だけでなく激しい腹痛や発熱も起きている場合は、食中毒の可能性があります。

食中毒の症状が軽症の場合は水分補給などの対症療法で改善が期待できますが、重症の場合は点滴や入院を必要とする場合があります。

 

便の色が「赤」「黒」「白」の場合

健康的な便の色は黄褐色〜茶褐色をしているため、便の色が赤・黒・白の場合は注意が必要です。

 

【赤色の便】

赤色の便は、腸管の粘膜に炎症や腫瘍があったり、肛門から近いところに病気が潜んでいたりすることで血が混じっている可能性があります。

赤色の便が出る主な病気は、細菌感染、大腸がん、大腸ポリープ、痔、炎症性腸疾患(クローン病・潰瘍性大腸炎)、腸結核などです。

 

【黒色の便】

タールのような黒色の便が出ているときは、消化管からの出血が疑われます。

血液中のヘモグロビンが胃液や腸内細菌によって酸化して黒くなっている可能性があるでしょう。

黒色の便が出る主な病気は、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がん、食道静脈瘤、出血性胃炎などです。

 

【白色の便】

白色の便が出ている場合は、胆道や胆嚢などに異常が起きて、便の中に胆汁が混ざっている可能性があります。

他にも膵機能の異常が原因となります。

白色の便が出る主な病気は、胆道閉鎖症、胆道がん、胆石症、膵臓がん、慢性膵炎などです。

また、米のとぎ汁のような下痢が出ている場合は、コレラ菌やロタウイルスによる感染症が疑われます。

 

体重減少を伴う慢性的な下痢

下痢が14日以内に治る場合は急性下痢、3週間以上続く場合は慢性下痢とされています。

体重減少を伴う慢性的な下痢は、以下のような病気の可能性があるので注意が必要です。

  • 過敏性腸症候群
  • 炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎)
  • 甲状腺機能亢進症
  • 糖尿病
  • 大腸がん

 

嘔吐を伴い水分摂取が困難

急な下痢と嘔吐がある場合、細菌やウイルスなどによる食中毒の可能性があります。

下痢や嘔吐の症状があるにもかかわらず、水分摂取が困難になると、脱水症や急性の腎障害を引き起こす場合があるので注意しましょう。

 

以下のような不調がある場合、脱水症の症状が疑われます。

  • 尿の出にくさ
  • 口の渇き
  • 立ちくらみ
  • 皮膚、口、舌の乾燥
  • 体のだるさ
  • 血圧低下

重症の場合は、点滴による水分補給が必要になるケースもあるので早めに医師に相談しましょう。

 

下痢と便秘を繰り返す

下痢と便秘を繰り返しているときは、過敏性腸症候群の可能性があります。

過敏性腸症候群の症状には「便秘型、下痢型、混合型、分類不能型」があり、混合型の人は下痢と便秘が起こります。

大腸がんを発症している場合も、便秘と下痢を繰り返す症状が現れることが多いです。

他にも、下痢と便秘を繰り返している場合は、以下の病気が疑われます。

  • 大腸ポリープ
  • 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)

 

【下痢や軟便】自宅での対処法

最後に、下痢や軟便が起きたときに自宅で行える対処法について紹介します。

 

こまめに水分補給をする

下痢によって体内の水分や電解質が失われるため、こまめに水分補給をしましょう。

下痢が続くときは、常温や少し温めた白湯や経口補水液、スポーツドリンクなどを少しずつ摂取するのがおすすめです。

吐き気もなく下痢の症状が軽い場合は、お味噌汁、スープ、ジュースなどでも水分補給が可能です。

 

ただし、以下のような飲み物は利尿作用によって水分が失われてしまう可能性がありますので、控えましょう。

  • 砂糖が多いジュース類
  • 炭酸飲料
  • コーヒー、緑茶などカフェインを含む飲み物
  • お酒
  • 冷たい飲み物
  • 熱い飲み物

 

食事は消化の良い食べ物を摂取する

下痢のときは胃腸が弱っている状態のため、消化の良い食べ物を摂取しましょう。

食事の量は少なめにして、栄養価の高い食品や整腸作用のある食品を取り入れるのがポイントです。

おすすめの食べ物避けた方が良い食べ物
  • おかゆ
  • 野菜スープ
  • 煮込みうどん
  • ヨーグルト
  • 食パン
  • すりおろしりんご
  • 鶏のささみ
  • 白身魚
  • 半熟卵
  • 食物繊維の多い食べ物(芋類・豆類・キノコ類など)
  • 脂肪分の多い肉・魚
  • 香辛料の強い食べ物
  • 生野菜
  • 海藻
  • ケーキ・菓子パン
  • 冷たい食べもの

 

自己判断でむやみに下痢止めを飲まない

食中毒で下痢が起きている場合、下痢止めを飲むと下痢の原因となっている微生物や物質が排出されにくくなります。

自己判断で下痢止めの市販薬を使用すると、症状が長引く場合があるので注意が必要です。

はっきりとした原因がわからないときは、むやみに下痢止めを飲まないようにしましょう。

 

【冷えによる下痢】原因にあわせて改善することが必要

前述したように、冷えによる下痢は「急性の下痢」と「慢性の下痢」が存在します。

そのため、原因にあわせて改善することが必要となります。

急性の冷え慢性の冷え
  • 腹巻やカイロでお腹を温める
  • 部屋を暖かくする
  • 入浴する
  • 厚着する
  • 温かい飲食物を摂取する
  • 身体や胃腸を温める食材(生姜・山椒など)を取り入れた食事を摂る
  • 生活習慣を見直し、自律神経を整える
  • 腸内環境を整えてくれる薬を服用する
  • 冷たい飲み物を避ける
  • 無理なダイエットをしている人は一度方法を見直す

 

【ストレスによる下痢】ストレスから離れ生活習慣を改善

精神的なストレスによる下痢を改善するには、なるべくストレスから離れる時間を作ることが大切です。

趣味を楽しんだり親しい人と話をして笑ったりするなど、自分に合う方法でストレスを解消しましょう。

また、不規則な生活を送っている人は、質の良い睡眠をとる・規則正しく食事をとる・運動習慣を作るなど、生活習慣を改善するように心がけましょう。

 

まとめ

下痢は胃腸のはたらきが低下して起きるものですが、原因は人によってさまざまです。

病院へ受診すべき重篤な症状がある場合は、なるべく早く受診するようにしましょう。

また軽度の下痢の場合は、安静にして水分補給や消化の良い食事で栄養補給をするなどの対処法を実践することで自然によくなるケースがあります。

食欲がない場合は、栄養補給ができる市販薬を服用するといった方法もありますので、自分にあった方法で症状を改善に導きましょう。