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編集部が気になるあの人に突撃インタビュー

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オリンピックに限って生理に!?
「しんどい」が言えなかったアスリート時代

伊藤華英さんが話す“生理”はリアルで真摯で、どこか明るい。大きな大会ではほぼ当たってしまう皮肉な月経周期に悩まされつつも、背泳ぎで日本代表になった10代から、“前向き”なスイムで引退するまで向き合った心と体の変化について伺いました。

TODAY'sGUEST

伊藤華英さん

伊藤華英さん

1985年生まれ、埼玉県出身。北京オリンピックでは100m背泳ぎ8位、ロンドンオリンピックでは400mフリーリレー7位。学生アスリートや指導者に向け、スポーツ×生理をともに考える「1252」プロジェクトのリーダーを務める。マットピラティスコーチであり、順天堂大学大学院スポーツ健康科学部博士号を持つ。著書に「これからの人生と生理を考える」(山川出版社)がある。

2年間、プールを離れたことが功を奏した!?

生後6ヵ月で水泳を始めたそうですね。何か覚えていますか?

プールの中で先生が人形を持っていた記憶がありますね。3歳で親から離れてスクールに入った時は、泣いたことを覚えています。小学校1年生で選手コースに入ったのですが、その頃には、水泳がライフワークのようになっていて、人よりも上手なことを認識していましたね。

小学校3年生で全国大会に出場するも、一度水泳をやめられたとか?

中学受験で4年生から毎日、塾に通っていたんです。水泳も毎日だとちょっとしんどいなと思って、5年生の時に水泳をやめたいと親に言ったら、あっさり「いいよ」と。でも中学では部活動に入らなくちゃいけない。他にやりたいこともなく、消去法で友達が誘ってくれた水泳部に入りました(笑)。

そしたら、しばらく休んでいたのが良かったのか、タイムがどんどん伸びて、15歳の時、東京都の中学校選手権で優勝を。みんなが「あの子は誰!?」って。

新星が現れた?と(笑)。その時、生理は?

初経は14歳になる直前に迎えました。最初は生理用品もナプキンだけ。まだ量も多くなかったのでプールに入る時も気にしていなかったんですが、ある試合の日、会場のトイレで母親に「タンポンを入れなさい。大丈夫、ちゃんとできるから」と言われた記憶があります。それからタンポンを使うのが当たり前になりました。

生理中、泳いでいる間は経血は出ないんですが、水から上がった時に出るんです。それがイヤでみんなタンポンを使うんですが、タンポンの綿が水でふくらむのでどうしても重い。だから、なるべくレースの時は使わず、プールから上がったらすぐトイレに行ったり、タオルを巻いたりしていました。

周囲に注目されたジュニア時代

不調の理由が生理とは気づかなかった

競泳関係者は、男女問わず生理を意識しているそうですね

競泳は、ほとんど男女同じメニューで練習するので、家族同然に毎日顔を合わせます。だから、生理のこともわかるように。私は自分から「イライラするから話しかけないで」って言うほうでしたが、何も言わなくても「今日は話しかけないほうがいいよ…」って男子も含まれたチームメイトが話しているのが聞こえてきました(笑)。

コーチも日々の測定で体重が増えてくると、「そろそろ生理になりそうか?」と聞いてくれますし、私自身、生理はナチュラルなこと、自然現象だからと気にしすぎないようにしていました。ただ、どんなに体調不良でも「しんどい」とは言えない。アスリートは皆しんどい練習をしなければいけない。そんなことを言うのは弱いんじゃないかって。

いよいよ日本代表を目指すようになり、生理についてはどのように?

最初に挑んだアテネオリンピック選考会では、生理をまだ意識していなかったんです。でも、代表選考会がちょうど生理前。極限のプレッシャーの中で、いつもは気にならないことが気になり出し、気持ちがどんどん下がっていきましたね。

当時19歳でホルモンバランスも一番不安定でしたし、いつもの生理前の症状でしょっぱいものが食べたくなり、おそらく体も塩分過多と水分不足になっていました。結局、良い結果は出せずオリンピック出場を逃してしまった。

ただただ負けたことが、恥ずかしかったです。周囲に対してというより、目の前のチケットを自分で手放してしまったことが恥ずかしく、初めて悔しいと思いました。

結果を受け入れられないのは、まだ自分の中でやっていないことがあるということ。そんなカッコ悪い自分にもう会いたくないなと心底思ったし、そこから北京オリンピックを目指す4年間は地球一周分泳いだかも! と思うほどがんばりました。

生理をコントロールする前向きな選択のはずが、体に合わず…

そして見事、北京オリンピックに出場を決め、ピルを使う決意を?

アテネの時は、不調の理由のひとつが月経前症候群(PMS)だったと、まだ気づいていませんでした。少しずつ自分の生理について考えるようになり、周期を計算したら北京オリンピックも生理なんです。

当時、国立スポーツ科学センター*1に婦人科はなく、相談する場所もないし、相談していいかもわからない。私自身、ピルで月経をコントロールできるという知識もほとんどなく。「めっちゃ楽だよ」と言う選手もいましたが、まだまだ使っている人自体が少なかったですね。

結局、コーチとお医者さんと相談し、オリンピックの3カ月前から中容量ピル*2を、「試してみるかな」というぐらいの気持ちで使うことにしたんです。

*1.アスリートがより効果的・効率的にパフォーマンスを上げられるよう、スポーツ医・科学、情報等による研究、支援を行うための施設
*2.現在は低容量・超低容量のピルが一般的。副作用の有無は個人差がある

ところが、私には合わなかったんですよね。泳いでいる時に腹圧や腹筋が入らなくなり、ずっと生理前のお腹がぽっこりした重い感じが続く。水をつかんで掻けている感覚がなく体に膜が張っているみたい。体重は1kg増えてもタイムに影響が出るのに、本番前に4〜5kg増えてしまった。「でも、もう飲んじゃったし、この身体で全力を出そう」と前向きにレースにのぞみましたが、決勝に進出できた100m背泳ぎは8位でした。

「あー、終わっちゃったな」と。メダルが取れなかった悔しさで、落ち込み方もよくわからなかったですね(笑)。

オリンピックを全身で感じるため、もう一度!

どのように気持ちを切り替えたのでしょうか?

「次のオリンピックに出よう!」と。だってまだ、全然オリンピックを感じられていない。自分のレースに集中していたので、オリンピックのあのマークを見た記憶すらない。もっと世界を見て、オリンピックを感じて、今後の人生やキャリアに活かしたいと強く思ったんです。

ただ、もうピルはやめようと。私の後悔はピルを使ったことではなく、しっかりした知識もなく、自分の生理周期とコンディションをちゃんと理解しないまま使ってしまったことです。

ピルが合う人ももちろんいます。私の場合は、生理がいつも通りあれば、不調の日もあるけど、調子のいい日もある。波があっても調子の良さを感じられたほうが幸せだと、気づくことができました。

ロンドンオリンピックまではどんな4年間でした?

2009年に胸椎のヘルニアと膝の脱臼をしました。ここで背泳ぎにこだわるより、自分が一番気持ち良い状態でやりきったと思えるのは自由形だと思い、転向しました。

周りからは、背泳ぎならメダル圏内、自由形だと決勝に残ることが目標になってしまうと反対されました。でも引退した時、怪我をしながらメダルを取れても、最高の気分で終われないだろうと、迷いはなかったですね。しかし、今振り返ると、メダルを取れなかったという多少の悔しさはあります。

ただ、自由形を選んだことで、視野がぐんと広がりました。特にリレーでは4人のタイムが出ないとオリンピックに行けません。年齢も上だったのでチームをまとめる立場になり、水泳はチームワークで成り立つことも改めて学びましたね。

メンタルトレーニングをしていたこともあり、ご縁を頂いていた心理学の先生には、「背泳ぎは感覚が研ぎ澄まされていたけど、自由形になって前を見ることができたね!」と(笑)。

ロンドンでの決勝進出は叶いませんでしたが、リハビリで出会った他競技の選手の活躍も楽しみで、自分たちのレースを応援することの両方ができました。初めて“オリンピック”を感じることでき、悔い無く次の人生に踏み出せる大会になりました。

◆生理のお悩みチェックリスト

□生理痛で寝込んでしまう
□練習や学校を休むことがある
□生理痛で痛み止めを飲んでも効かない
□痛み止めを使う量が増えている
□年齢が進むにつれて、生理痛がひどくなっている
□経血量が多い(血のかたまりが出るなど)
□生理前にイライラや気分の落ち込み、憂うつになる

□生理前にむくみや体重増加などコンディションに影響が出る症状がある
□重要な試合に合わせて生理がずらせるか相談したい
□15歳になっても初経がきていない
□月経周期が不規則である
□3ヵ月以上、生理が止まっている

★1つでもあてはまる人は、婦人科医に相談しましょう

伊藤華英さんの著書「これからの人生と生理を考える」(山川出版社)より

編集後記

アスリートとしてのキャリアを終えた伊藤さん。後編は、引退後に大学院で学んだことや、思いがけず”生理の人”として注目され、活動することになったセカンドキャリアについて伺います。

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